森の林冠についてもう少し書いてみます。いちばん外側で最初に光や雨を受けるのが林冠部分ですが、落葉広葉樹の葉は総じて薄く、光を透過するため森の中は暗くならず内側の空間にも葉は茂り、林床の下草や幼木も育ちます。ブナは森で生きる動植物たちに木陰と木漏れ日という程良い棲息環境を提供してくれます。
林床に寝込んで空を見上げてみると林冠とその内側にも光が届くことがよく見える
ブナの実生。明るい林床には下草や次世代の幼木が育つ
林冠を形成する木が朽ちて倒れると、そこに空間ができ、それを林冠ギャップと言います。わかりやすく言うと森の屋根に穴が開くわけです。すると周囲の樹が光と雨を受けようと枝を伸ばしそのギャップを埋めてしまいます。
そのため整然と並んだ人工林に比べて、原生林のブナはクネクネと曲がっています。尾根付近や崖っぷちに立つブナは傾斜と風の影響を受け更に複雑に曲がってます。冬には数メートルもの雪に閉じ込められ吹雪の暴風に耐え、そして春になり雪から解放されると光と雨を求めて再び上を目指します。重さ数トンにも及ぶ樹木が自由に曲がっていくために根は深く伸びしっかりと岩を抱いています。
光と雨を受けるために曲がっていくブナ。その根は大地を強く掴んでいる
クネクネと曲がったブナは、おまけに水分が多いため狂いやすく朽ちやすく建築材としては不向きです。そのため薪にして燃やす以外に役に立たない不要な木として国策により原生林は伐採されスギの人工林に姿を変えました。国策による原生林伐採とその後の植林、それは人が犯した最も大きな間違いでした。原生林は水を治め、山を治め、命を育むという経済的な価値では測れない大きな役割を担っていたのです。
建築材として優れた針葉樹林や西日本に多く見られる常緑の照葉樹林についてはそれぞれに事情が違い、話がどんどん逸れていくのでまた後日に。キーワードは曲がれない針葉樹と西日本には雪が積もらず雨が多いということです。
ブナの森はとても明るい
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