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かつてブナはいちばん普通の雑木だった2018

「かつてブナはいちばん普通の雑木だった」これは初めて森の写真展を開催した時のタイトルです。森を撮り始めた頃に偶然出逢い、開催のきっかけともなった一冊の古い辞書からつけました。その昭和35年発行の国語辞典ではブナについてこう書かれています。

「山野にはえるいちばん普通の雑木の名で、たきぎや炭にする」

建材として使えないブナは燃やして燃料にするしか役に立たないという60年前の認識です。ブナの森の美しさに魅了された僕には、それがかつて何処にでもあった普通の雑木だったという事実は驚きでした。

その間違った認識のままに国策で進められた昭和の拡大造林により雑木林は姿を消し、ブナは普通の雑木ではなくなった。

写真展の開催を重ねる中で、実際に伐採作業に従事した人たちから当時の話を聞く機会も多くありました。

「役に立たねえダボ木と呼んで伐りまくった。あれはいけなかったなぁ~」と、しみじみ語ってくれたご老人。スラッとした杉の林が当時の流行で、

曲がりくねったブナの山は後進性の証とされ恥だったそうで「ブナ狩り」と呼んだそうです。電柱材として高く売れると、信州では成長の早いカラマツが奨励され「とにかく植えれば金がもらえた」など、ネットや関係者の資料からは知ることのできないご老人たちの生の声を聞いてきました。それを伝えていくことも僕の写真にできる役割だと思っています。

 

森へ足を運び、森を見てください。そしてブナが普通の雑木じゃなくなってから現在まで、毎年繰り返されてきた自然災害とは呼べない様々な出来事を考えてください。そして想ってほしい。

もしも今でもブナがいちばん普通の雑木であったなら…

もう知識はいらない。本当のことは直観でしか掴めません。

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